2021/02/25
浄土院副住職信宏和尚の法話 「ひたすらに愚に還れ」
コロナウイルスのワクチン接種が日本国内でも始まりました。接種の優先順位は国から定められていますが、
実際にワクチンを受けるかどうかは、私たちの判断に委ねられています。
コロナウイルスも怖いけど、ワクチンも怖いと不安な人もおられます。「正しく恐れる」というのは難しいこと
だと感じます。私よりちょうど百歳年上の寺田寅彦氏(物理学者)も次の言葉を残しています。
「モノを怖がらなさ過ぎたり、怖がりすぎたりするのは易しいが、正当に怖がることはなかなか難しい。」
物事を判断する時、正しく見ること、正しく物事をとらえることは人生経験を積んでいても難しいことなのです。
先日、年齢10歳の小学生が私にこんなことを言ってきました。「良い子は真似をしないでくださいって変だ」と。
テレビでお笑い芸人が危険なことをする時にそのような字幕が出てきます。私は注意喚起のためのよくある表現
として何が変なのかわかりませんでした。小学生に何が変なのか尋ねてみると、小学生はこんな意見を持ってい
ました。
「そもそも良い子には危険なことを真似しようという発想が無い。悪い子こそ注意しておいた方がいいから、悪
い子は真似をしないでくださいと言うべきだ。」
大人の都合に流されず、物事を自分の目で見つめることができている小学生に感心しました。
物事を判断して自分の意見を持つというのは年齢を超えて素晴らしいことだと思います。
一方で、私たちの生きている世界は「迷いの世界」ともいわれます。迷うことが多いです。迷いの原因は自身の
煩悩によるのですが、ついつい他のもののせいにしてしまいがちな 私たちです。
そんな私たちに自分自身の心をしっかり見つめなさいと法然上人は次のように仰せです。
「浄土門の修行は、愚痴に還りて極楽に生まると知るべし。」
お念仏の御教えは愚かな自分に立ち返って極楽に生まれると理解しなさいという意味です。
物事をいつも正しく見つめて、いつも正しく判断して生きていけたらストレスなど感じないかもしれません。
しかし、それが到底できない私たちです。煩悩まみれの私たちを何とか救い取りたいと願い続けている仏様が
阿弥陀如来様です。お念仏を申す中で、平生には阿弥陀如来様は見護ってくださり、臨終の時は自ら来迎して
極楽浄土へ往き生まれさせてくださいます。
コロナ禍の中、迷いの多い生活ではありますが、愚かな自分を自覚しつつ、心が転倒しないようにお念仏申し、
春のお彼岸の季節をお過ごしください。
合掌